「ボン・ヴォヤージュ」よき航海を

瀧本哲史「2020年6月30日にまたここで会おう: 瀧本哲史伝説の東大講義」

「ボン・ヴォヤージュ (bon voyage)」という言葉はフランス語の挨拶で、「よき航海をゆけ」という意味だそうです。見送りのときなどに交わされる、もともとは船長同士の挨拶とのこと。自分の船を持っている船長は、自らリスクをとっているひとで、意思決定者です。そして航海において意思決定をする立場にない船員は、「ボン・ヴォヤージュ」という挨拶はしないらしい。

という話を、瀧本哲史「2020年6月30日にまたここで会おう: 瀧本哲史伝説の東大講義」で読みました。

この世に真の教えなんてない。僕の話も信用するな

この本を読むまで知りませんでしたが、瀧本さんという方は次世代への教育にとても力を尽くしていた方だそうです。この本は、瀧本さんの2012年6月30日の講義を書き起こしたものです。講義は参加資格を29才以下に限定し、約300人の10代と20代が全国から集結。バイブルとカリスマを否定し「この世に真の教えなんてない。僕の話も信用するな」という瀧本さんが、集まった若者たちに「武器」を伝えようとする、2時間以上に渡る、賢くて熱い話が刺激的です。

この本そのものが、その成り立ちも編集もとても熱のこもった素敵な本なのですが、見出しに拾われている瀧本さんのメッセージは以下のようなものです。

  1. 人のふりした猿にはなるな
  2. 最重要の学問は「言葉」である
  3. 世界を変える「学派」をつくれ
  4. 交渉は「情報戦」
  5. 人生は「3勝97敗」のゲームだ
  6. よき航海をゆけ

なぜ日本を良くしたいのか

講義終盤の質疑応答では、生徒さんのひとりから「なぜ日本を良くしたいのか」と問われ、それに瀧本さんは答えます。来世を信じない瀧本さんにとって「自分の時間」という資源はけっこう有限なので、なるべくその資源を活用するようにしたい、自分のリソースを最大限活用するのにどこがいいかと考えた、と。

なるべくインパクトがあって、すごく困っているところが大逆転していちばん良くなるとか、とってもいいじゃないですか。

2012年のこの講義の中で、瀧本さんはこの国はもうオワコンだと感じながら、それでもまだ復活し得ると考えようとしています。この講義に集まったような若者たちと各々がそれぞれに色々やることで、世の中をきっと変えられるはずだと。

ということで、さきほど僕は、日本から抜けるという可能性を検討したことがあるって話をしたと思うんですど、たぶん2020年までには、この国の将来ってある程度見えてると思うんですね。

もしできることなら瀧本さん自身が2020年までは日本を見捨て離れてしまわないように、瀧本さんは若い生徒さんたちに呼びかけます。この講義のちょうど8年後の2020年の6月30日の火曜日にみんなで再決起をしようと。会場に集まっている革命の同志たちみんなでまたここに再び集まって「宿題(ホームワーク)」の答え合わせをしよう、という企画を約束していたのです。

そう。水無月を食べながらこれを書いている今日は2020年6月30日火曜日。

瀧本さんは、京都大学客員准教授、エンジェル投資家、優秀な経営コンサルタントにして、教育者。再決起の日を待たず、2019年8月、病気のため亡くなったそうです。

「俺たちはお互いに自分の判断でリスクを取っている」ということに対する敬意があるから、余計なことは言わずに、ただ「よき航海を」

講義は「ボン・ヴォヤージュ」という挨拶で終わります。瀧本さんは「ボン・ヴォヤージュ」という挨拶は自立した人間たちの挨拶だということを憶えておいて欲しいと言っています。

で、航海中に船がすれ違って船長同士で挨拶をするときは、「あっ、あの船は、あちこちネズミに食われてるなー」とか、「そっちへ行くと嵐になるんじゃない?」とかって、お互いに思っていても、そういうことは絶対に言わないんですよ。
「俺たちはお互いに自分の判断でリスクを取っている」ということに対する敬意があるから、余計なことは言わずに、ただ「よき航海を」なんです。

50代も半ばになると、正直、自立した人間として自分で考え自分で身銭を切ることも、革命に貢献しつづけことも、大変です。大変ですが、そうですね。ボン・ヴォヤージュ。まだいまのところ、自分の人生というリソースを活用できる幸運に恵まれている以上はみなさんご一緒に。

よき航海を。

約束の日、講義をオーディオブックとして再現

さて、再決起の日の今日、日本はどうなっているでしょうか?

日本だけでなく、分断された世界のさまざまな問題をわかりやすく顕在化することになったCOVID-19の影響で、宿題の答え合わせの日のリアルの集会は見送られているようです。

そのかわりにこの素敵な本を朗読したオーディオブックが、いくつかの形で公開されています。私も「YouTube Liveにて一夜限りの無料配信」を拝聴しました。どうもありがとうございます。

瀧本哲史氏の講義を完全再現!『2020年6月30日にまたここで会おう』オーディオブック化|オーディオブック配信「audiobook. jp」公式|note

読みたい本

瀧本哲史「2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義」(星海社新書)

カテゴリー: Book